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米政府が北朝鮮による拉致被害者家族会や支援組織「救う会」、超党派の拉致議連メンバーの訪米団に対し、全拉致被害者の即時一括帰国と引き換えに日本政府が北朝鮮にかけている独自制裁を解除することを、正当な手段として支持する意向を示したことが5月2日、分かった。
家族会と救う会、拉致議連の一行は4月29日から5月2日にかけワシントンで国務省、財務省、国家安全保障会議(NSC)の高官、上下両院議員と面会。家族会と救う会が2月に決めた「親世代の家族が存命中に全拉致被害者の即時一括帰国が実現するなら、わが国が人道支援を行うことと独自制裁の解除に反対しない」との新運動方針を説明し、理解を求めた。
新方針は「人道支援に反対しない」との昨年の方針に加え、北朝鮮船舶の日本入港や朝鮮総連幹部の北朝鮮往来をはじめとする「独自制裁解除にも反対しない」との決断を付け加えたものだ。
関係筋によると、バイデン米政権高官や有力議員からは日本の独自制裁解除について、全拉致被害者を帰国させるための正当で、合理的な手段として支持、評価する考えが示されたという。
親世代は横田めぐみさん(59)=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(88)、有本恵子さん(64)=同(23)=の父の明弘さん(95)と高齢の2人となった。一行は対話路線に軸足を移すのは時間的制約がある中での「苦渋の決断」と訴え、米側で異論や反対意見を示す人は一人もいなかった。「同じ気持ちに立つ」との反応もあった。
岸田文雄首相は拉致問題解決に向け北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談の早期実現に意欲を示す。米政府は、核・ミサイル問題から拉致問題を切り離して主要議題とする日朝首脳会談の実施を容認するとともに、日本が全拉致被害者の即時一括帰国を条件に、人道支援に加え独自制裁を解除する考えを支持する姿勢を示したとみられる。
国務省のパテル副報道官は4月30日の記者会見で、今回の拉致被害者家族らの訪米に関連し「米国は長期間苦しみを続ける拉致被害者の家族を支持する。北朝鮮に対し、この歴史的な過ちを正し、依然行方が分からない人たちに関する十分な説明を果たすよう強く求め続ける」と語った。
筆者:渡辺浩生(産経新聞ワシントン支局長)